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母が認知症なのに、今度は私が癌になった…女性との対話

2023.02.24

「ため息しか出てこないです」

受話器の向こうから重苦しい声。どうしたんだろう。

「疲れました。もう、どうしようもないんです」

八方塞がりの状態なのか、あきらめの言葉なのか、受話器を持つ手が堅くなる。

「私の母、認知症なんです。でも、自分は認知症じゃないと言うんです。自宅で介護していて、夫や子どもが協力してくれるから助かっています。でも、今度は私が癌になって。来月手術です。母のことも、こっちのことも、どうすればいいのか…」

母親のこと、自分の病気の不安、入院後の家族の生活。考えても考えても出口が見えない、袋小路に彼女は入っている。

どんな言葉を掛けたらいいのか。

「いろいろありすぎて、疲れちゃったんですね」

やっとのことで言葉を掛ける。

「ため息ばかりだと、どんどん落ちていきます。でも、考えないようにしていても、つい考えてしまうのです。気が紛れることがあるといいのですが」

「何かありますか」と、問いかけてみる。

「何でしょう…」

少し時間が経って、

「これといって思い浮かばないですね。でも、先を考えたら息苦しくなるんだってこと、分かりました。あんまり前を見すぎないで、目の前のことを毎日ちょっとずつやれば、そのうち良くなっていきますかね」

声が少し明るくなってきた。
受話器を持つ手が緩んでくる。

「少し楽になりました」と、電話が終わった。

すっきりとした空の青さが私に染みてきた。


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